匠、引退。有終の美を飾る。(1)

季節のはざまに暮る、次なる実りへの思い。
ある地方の豪農に代々言い伝えられている訓戒をひとつ。
『夢のような収穫を謳歌するには、土づくりと種蒔きに、現実の汗の大半を注ぐべし』。
春夏秋冬、季節ごとの大いなる実りには、そのはざまにこそしかるべきものがあると諭した先人の言葉には実に深く身にしみいる含蓄があります。
四季のただなかに生の喜びを見つけるのは当然しごく。しかし、それと共に、移ろい行く季節のはざまには、四季という自然の恵みを得た私たち日本人だけが見つけ、味わうことのできる、風雅、活力、趣が脈々と流れ続けているのです。
 
人生もまたしかり。移ろいつつ事を成す。
その季節の移ろいに含まれた趣は、人の生き方にも相通じるもの。例えば、職人が創り出す作務衣が四季の華であるとするならば、その人の経験と休みない練磨、後進の指導や育成は、いわば種蒔きの時期。
そんな道を経てこそ、四季の作務衣という大輪を咲かせることができるのですから。
そして今回、移ろう季節の例えのごとく、ある名職人の引退を、会員の皆様にお知らせしなければならなくなりました。

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