緑茶染作務衣(りょくちゃぞめさむえ)

職人が、茶処は静岡の県産業技術センターの協力のもとに作り上げた、茶葉染作務衣「掛川」から5年。満を持して、この夏、緑茶の微妙な緑にこだわった新作「緑茶染作務衣」がデビューします。
かつて、3年もの歳月をかけて完成させた茶葉染作務衣
静岡県西ケ崎の八代目が「お茶染め」に挑戦し。3年もの歳月をかけた茶葉染作務衣「掛川」は、完成まで何度も試作を重ねました。
何しろ一着に一キロの一キロの茶葉を使うため、お茶の手配から始まり、そしてその後、お茶の煮出し、2時間の漬け込み、媒染1時間を4回繰り返す等、まさに気の遠くなるほどの手間がかかりました。
さすがに完成品の出来栄えは見事の一言に尽きましたが、当時は数多く作ることができず限られた皆様にしかお届けできない状態でした。
もう「お茶染めの作務衣」はないのかとお問い合わせ、ご要望を頂く度に、心苦しい思いをしたものです。
茶葉染めの経験を生かした新作緑茶染め。
ご要望には何としてでも応じさせて頂く、それも間に合わせでないものを…というのが当会の技術と心意気。前回の経験を生かし、着々と準備を重ね、新茶の登場を待って、新作発表にこぎつけました。
鮮やかな、香り立つようなお茶の緑の再現。緑茶染めならではの健康的な肌触りは、まさに緑風をまとうような着心地です。
味わい深い素朴な色合い…上質のお茶から生まれた「緑茶染作務衣」。
天と地と人に育まれ…八十八夜に摘まれし香り高き緑茶。今、各方面で注目を集めている、緑茶そのものから染め上げた作務衣が完成しました。
お茶の香りがしそうな上品な作務衣です。

万葉百彩 藍茶葉交織作務衣(まんようひゃくさい あいちゃばこうしょくさむえ)

茶葉染めの糸を組み合わせてみたら…仕掛け人は七代目。遊びごころが見事な作品を生んだ。さすがに目が利く。
息子さんの茶葉染め開発をじっと見守り続けてきた七代目。聞かれること以外は余計な口出しは一切さけてきたという。
だが、職人としての心はムズムズと騒いでいたようだ。ましてや、息子さんの茶葉染めが目を見張るような出来栄えときては、もうたまらない…。
茶で染めた糸を拝借。これをタテ糸に、得意の藍染糸をヨコ糸に使い交織。これまでの藍染では出せなかった作務衣が実に新鮮。藍染めファンには見逃せぬ一着に仕上がった。さすがに四十年以上のキャリアは伊達ではない。
ネップ加工も施された奥深く、何かを語りかけるような藍の色合い――幻の作務衣にしたくないとの申し出に、「じゃ、1ヤード分だけなら…」と七代目。やっと150着のOKを得た。ただし、価格は息子さんのそれを越えないで欲しいとの条件がついた。

万葉百彩 茶葉染作務衣 掛川羽織(まんようひゃくさい ちゃばぞめさむえ かけがわはおり)

どんな作務衣にも合わせやすい――との声しきり。
羽織を合わせた“姿”の良さは、もう言わずもがな。「またお茶っ葉が要るなぁ…」と辻村啓介さん。ぼやきながらも、ハナから羽織は作るつもり。
羽織一枚で作務衣自体の格調が上がることは百も承知。同じ着るなら、作るなら…。
もう、羽織は高級作務衣の定番組み合わせになったようです。

万葉百彩 茶葉染作務衣 掛川(まんようひゃくさい ちゃばぞめさむえ かけがわ)

陽の光満ちて、水清らか、おだやかなこの地に育まれ、八十八夜に摘まれし茶葉――。いま、密やかに鮮烈に色づく。
誰も成さず、まだ成し得なかった染の分野に、探究心旺盛な職人が挑み、これを成し遂げた。茶葉染作務衣の誕生である。
一着に千グラムもの茶葉を必要とし、手間と時間をかけ、ひたすら染め上る。こうして染まった色合いは、まさに香り立つが如き素朴さと溢れる気品を醸し出す。
滋味深き作務衣――名を、茶の産地“掛川”に戴き、颯爽と名乗り出る。

西ケ崎から、新しい風。「辻村染織のお茶染め」(7)

何だかお茶の香りが漂ってくるような、素朴で上品な色合い。
以上、駆け足ながら工程を見せてもらった。しかし、まだ完成品を拝見していない――。
「いやあすまん。工程を経てから見て欲しかったもんでな。少しじらしすぎたかな…」と七代目。そこへ啓介さんが、一着の作務衣を抱えてやってきた。
スタッフから期せずして声が上がった。先ほどの糸の段階で見た黒っぽい感じはきれいに消えていて、実に味わい深い“茶色”に仕上がっている。少しザラッとした手触り、表面にボツボツした加工がしてある。
「ネップ加工をしてみたんです。作務衣の良さは、様式や色と並んで肌にふれる感触や素材の手触りにあると思いますから、ゴワゴワ感やザラッとした感覚は大切だと思いますよ」と啓介さん。そう言えば、七代目の代表作“刺子作務衣”も…。
「茶染めの新しさだけに甘えちゃいかんということですな」と、七代目がピシリと決めた。
しかし、何とも素朴で上品な色。何だかお茶の香りが漂ってくるような感じ。これなら文句なしである。
「申し訳ないと思ったけど、自信があったのでもう作り始めているよ。というのも、かなり日数がかかるし、茶の大量仕入れの関係もあったからね…」
それは大助かり、手作り作務衣の悩みは、注文殺到時の供給が追いつかないことだからだ。
夏季的な茶染め作務衣の開発。しかも、この質の高さは驚異的。
「趣味や同好会などで個人的に茶染めをやっている人はいるかもしれないけど、茶染めの作務衣ってえのは聞いたことないな。まず初めてのことだと思うよ」と七代目。啓介さんもウンウンとうなずいている。
常に作務衣の質的な向上と広がりを求め続けている当会としては、今回の本格的な茶染めの開発は非常にありがたい。しかも、初めてにしてこの質的レベルの高さは、啓介さんと七代目に深い敬意を表したい。
それもこれも部屋の片すみに積んである試作品の山に尽きるようだ。
「いやあ、これは人に言うことじゃないですよ。自分自身のためにやったことなんですから…」と謙虚な啓介さんだが、思い込んだら一すじの妥協を許さぬ性格が、この成功を収めたと言うべきだろ。
来年の八十八夜に向けて、早くもお茶の手配を…
今後、西ケ崎では、藍染めを七代目、茶染めを啓介さんの二本柱で展開してゆくという。
「来年の八十八夜に向けて、材料であるお茶の手配にもう頭を痛めていますよ」と啓介さん。幸いに、この茶染め開発には、掛川の農協関係者も注目していて、協力を約束してくれているという。
七代目、立派な跡取りができましたね――と水を向けると、「なあに、まだまだひよっ子だよ」と照れた。

西ケ崎から、新しい風。「辻村染織のお茶染め」(6)

タテ糸とヨコ糸の割合をイメージに沿って計算する。
天日干しした糸をいよいよ織り機にかける。ヨコ糸は少し濃い目にタテ糸は薄目に…。
「その割合は倅が計算するんだ。ただ織りに関してはワシにも多少の出番はあるな」と七代目。啓介さんも、「よく相談しますよ。やはり、おやじの経験は貴重ですからね」
啓介さんのイメージにある色を実際に織りで出すのだから、タテ糸、ヨコ糸の割合はデリケート。二人で額を寄せ合って考えている。
「染めの色が均一な科学染料なら一回決めちゃえばいいんですが、手染め、糸染めですから、その都度細かなチェックをいれてます。それに、これまでずいぶん織ってきましたから、だいたいのカンは身についてます」
手織に近い速度でゆっくり糸が織られていく。
こうやって織り上げられた生地を、ワッシャーで丹念に洗う。この段階で、茶染め本来の色が姿を現すわけである。これでもか、これでもかとワッシャーにかけることで色落ちも防げる。
最後に、この生地を縫い、いよいよ完成となるのだが、啓介さんの仕事は一応これで終了。あとはプロの手による縫い上げを待つばかりである。しかし、ほっとする暇はない。山のような白い糸が、啓介さんの染めをじっと待っているのだから…。

西ケ崎から、新しい風。「辻村染織のお茶染め」(5)

漬け込み2時間、媒染を1時間。これを4回繰り返す。
漬け込みを終えた糸を次のカメに移す。ねずみ色かかった黒い液。
「これが媒染液、鉄分を混入しています。この液に漬けておくと鉄分の働きで、染付けが良くなるんです。つまり、色がくっつきやすくなるんです。ここで染付けの堅牢度を高くしておかないと、色が濃くならない上に、洗うと色落ちの問題も出てきますから…」と啓介さん。一回に約1時間、この媒染液に漬け込む。
引き上げると、これが茶染め?と思うほど黒い。これでちょうどいいという。煮出し液への漬け込みが約2時間、媒染が1時間――この染め工程を4回も繰り返す。合計12時間も漬け込むというわけだ。
タテ糸ならこれでいいが、濃いヨコ糸は、この工程をさらに3日間も続ける。約36時間というから、確かに茶染めは難儀やなぁ…という感じだ。
染め上がった糸は、脱水機にかけ、天日干しにする。脱水した時点で少し薄くなったが、それでもかなりグレーっぽい。素人サイドから見たらやっぱり不安だ。
「大丈夫だって…洗い落とした時点の計算は十分にしてあるんだから」と啓介さんはニヤニヤ。この糸を洗うんですか?と聞くと、このまま織り機にかけるという。もういい、仕上がりをじっくり見させてもらおう。

西ケ崎から、新しい風。「辻村染織のお茶染め」(4)

2時間漬け込んでも、まだ白っぽい。茶染めは辛抱だ。
この煮出したお茶の染液に糸を漬ける。お茶は藍に比べて染まりにくいので、漬け込んだままにしておく。
「藍染めなら、漬けて引き上げるだけでかなりの色が付くけど、お茶は大変ですよ、一回で約2時間ほど漬け込んでおきます。もちろん、これを何回も繰り返すんですけどね。茶染めは辛抱ですよ」と啓介さん。
「難儀なこっちゃなぁ…」と涼しい顔の七代目。憎まれ口をたたきながらも満足気である。
「引っ張り上げてみましょうか。この程度しかまだ染まってないんですよ」と啓介さんは、2時間漬け込んだ糸を引き上げてくれた。薄い茶が、啓介さんが絞ると白っぽくなってしまう。なるほど、これは大変だ。
「そう、だから茶染めには藍染めとは違った工夫がいるんです。藍染めが空気酸化という特殊性を持っているのに対抗して、自然の力が借りられない茶染めは、染め付けを良くするための媒介物を使うのです。これを“媒染(ばいせん)”と言います」

西ケ崎から、新しい風。「辻村染織のお茶染め」(3)

藍染めと違って染まりにくいから、鉄分の力を借りて色付けを高める。
まず染料のお茶である。
「いろいろ試してみたけど、粉茶が一番染まりやすいですね。もちろん飲めますよ。これに茎なども入った“けば茶”を混ぜます。これを一着1キロの割合で袋に入れて、煮出します」と啓介さん。
話しながら、手は素早く動いている。お茶1キロと簡単に言うが、これはかなりの量。過程にある100グラム入りの茶筒十本分を想像していただきたい。それだけの量でやっと作務衣一着分なのである。
このお茶を煮えたぎった鉄の釜に入れぐつぐつと煮る。時折かきまぜながら、徹底的に色を煮出してしまうのである。
十分に色が出たら、鎖と滑車を使って使用済みの茶葉を取り出す。水分を含んだ茶葉は重い。この鎖と滑車の仕掛けは、七代目のアイディアだという。力技なら十八番の啓介さんも、これには助かったと感謝。七代目の面目躍如である。

西ケ崎から、新しい風。「辻村染織のお茶染め」(2)

「話を聞いた時は大丈夫かいな…と思ったけど、試作を見たらこれがなかなかのモンでね」と七代目。
よし、完成!というレベルに達したのが今年の二月。商品化のためにはどうしても必要なお茶の仕入れを急ぎ手配しなくてはならない。
「何しろ一枚の作務衣を染めるのに、1キログラムの茶葉がいるんですよ。だから、商品化にはトン単位の手配が必要。それも新茶摘みの前に…」
いくら茶処静岡といっても、トン単位の手配は難しい。この難題解決への救いの手は、啓介さんの母上、七代目の奥さんから差し伸べられた、県内でも有数の茶処掛川出身の奥さんのつてで、掛川の名門老舗茶問屋が快く話に乗ってくれたという。
事を成すのは天の利、地の利、時の利が必要だという。機は熟せりという感じで、啓介さんは突っ走った。
「おやじの刺子作務衣の評判を聞いて、最初に着てもらうのはお宅の会員の皆さんしかないと思ってました。だから、事後承諾になっても…とどんどん作っていますよ」とニッコリ。自信満々の笑顔に、こちらは押されっぱなしである。
小柄で飄々とした七代目に比べ、学生時代に柔道(二段)で鍛えた90キロの体躯は威風堂々。合理的で柔軟な発想の七代目に対して、頑固で思い込んだら一途の啓介さんと、何から何まで対称的な二人である。
「父と息子が入れ替わったみたいだね。でも、作品にこだわりを持っている点はワシも評価するよ。ま、その分苦労も多いだろうけどね…」と七代目。茶染めの分野では、完全に啓介さんに一目おいているようだ。
さて、このあたりで茶染めの工程を実際に拝見させていただこう。待ってましたと啓介さん、すっくと立ち上がる。五体から自信と喜びが満ち溢れている。頼もしい限りだ。