春に挑んだ二人(4)

1インチ単位で糸の交わりを考える交織技法だから…
思わず息を呑む。何と言えばいいのだろう…この色は。微妙で薄く明るい緑に、藍のタテ糸がひそやかに走っている。
「じゃ、これを見て」と石塚さんが四、五枚の布地を見せてくれる。ほとんど違いが分からない。
「いや、全然表情が違いますね。この違いに悩んだんです。タテ糸を流しながら、1インチ単位でヨコ糸の飛込みを考えるんです。1インチの中に何本ヨコ糸を入れるかで、表情がまるで変わってきます。ですから、試し織りは何度もやりましたよ」
「石塚さんの試し織りは30メートル単位だからスゴイよねえ…」と秋元さん。え?30メートル単位?
「2~3メートルじゃ分かりません。30メートルは織ってみなきゃ…」と平然たる石塚さん。
藍染のタテ糸がカスってるから計算できないものがあり、これもやむを得ないのだという。
「陶芸でも、カマの中で灰が思わぬ模様をつくるから、カマから出してみなければ作品の仕上がりが分からないというでしょう。あれと同じです。だから、何度も織ってみるんです」
やっと満足がいったという。これが石塚さんの考える春の彩だという。何も言うことはない――あとは、この彩をどう会員に伝えられるかが問題だ。
「生地見本はつけるんですか?」と石塚さんに聞かれた。30メートルとは比較にもならないほど小さいが、付けたいと思ってると答える。
「いや、小さくてもいいんです。彩には質感もありますから…。それに写真でこの色を表すのは、申し訳ないけど絶対無理ですから。是非添付してください」とのこと。石塚さん、相当の自信あり――と見た。

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