春に挑んだ二人(5)

卯月とはいい名前だ。春のすべてが表れている。
「名前はどうつけるんだい?」と今度は秋元さん。早春でもなく、晩春でもなく、春真っ盛りの四月。春すべてを包括する意味で“卯月(うづき)”としたいと思うと恐る恐る答える。「卯月…ほう、ええねぇ」と石塚さん。鶯(うぐいす)などと言われたら反対するつもりだったという。
古来より植物染料として定評のある四種の染料を混入したことから万葉、織りで創った彩という意味で“百彩”織りと表現したいとの申し出にも了承をもらい、ここに――万葉百彩織作務衣「卯月」が誕生した。
この作務衣の良さ、わかってくれるよねぇ…
待つこと半年。すべてをゆだねた春の作務衣開発は、武州職人の飽くなき探究心と心意気により、想像以上の成果を上げたといえよう。
「あ、言い忘れたけど素材は上質の綿だからね。綿でなくちゃいけないんですよ」と石塚さん。
突然、石塚さんの提案で利根川に夕焼けを見に行く。落ちてゆく夕日を見ながら「分かってくれるよね」とつぶやく石塚さん。大丈夫、うちの会員のレベルは高いから…と答えたら、嬉しそうに笑った。
【交織織りについて:画像上】

  • タテ糸は武州正藍染。カメに着け引き上げる。空気酸化によりうす緑から藍に染め上がる。このタテ糸は三回染め。三回も染めていながら、この微妙な薄さは秋元さんの技術。カセ糸状で染めるため、また空気酸化のせいで計算できぬわずかな染めムラができ、これが織りの段階で味となる。
  • 基本の緑に藍の葉をはじめ、次のものを加える。
  • 深く微妙な自然の色を出すために、高級科学染料に、藍の葉・梔子(くちなし)の実・刈安(かりやす)・蘇芳(すおう)から抽出した染液を混ぜる。ムラなく、安定した染め上がりのために敢えて機械染めにする。こうして染め上がったのが、下のようなヨコ糸である。

【交織織りについて:画像下】

  • カセ状のままでは織り機にかけられないのでコーン状に巻き取り、整経機にかけ…
  • 400本以上のコーンからドラムに巻き上げるシーンは実に壮観である。
  • タテ糸とヨコ糸を織り機にセット。藍のタテ糸が流れる中に、計算されたヨコ糸が飛び込んで交わる。石塚さんの織り機は、ゆっくりとした手織り感覚。1日に30メートルしか織れないという。
  • 試し織りを重ねて完成した生地。濃い緑のヨコ糸が、藍のタテ糸と交わることにより、こんなに変化する。藍のタテ糸は。途中で消えたりかすれたり…。これが完成した春の作務衣「卯月」の生地である。

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