正絹刺子織作務衣 常盤

季節が奏でる移ろいの波、情緒が最も高鳴る神無月。ついと見上げるおぼろ月に、作務衣の表情もさざめき変わる。その光加減を肴に呑む杯が、ほろろ嬉しい月下の宵。
実りと収穫を迎える錦秋は、作務衣にとっても嬉しい季節。それは、年間を通してこだわりの作務衣の開発に着手し、その季節ならではの旬の一着を創り続ける当会にとって、装いを愉しむのに最もふさわしいと云われるこの季節に焦点を合わせた力作が多いからです。
その中でも絹刺子のシリーズは、生地の王者である絹と、素朴で味わい深い刺子という、いわば装いの両極にある存在をひとつに融合させた類稀なる傑作として高い評判をいただきました。
しかし、ここしばらく新作をお目にかけなかったのは、その人気にあぐらをかいていたわけではございません。大きな期待の壁を飛び越えるには、開発にかける時間が必要だったのです。そして、満を持した最新作、その彩りは永年に渡り愛されたいとの願いを込め、常盤の松のような緑で参ります。
心に落ち着きを与え、目にも優しい彩の現実
“松の如き緑”とは…多くの方が意表を突かれたことと思います。しかしながらこの色は、人気シリーズの新作に相応しい彩を選ぶために、十数色もの試作品を仕立て、吟味とリサーチを重ねた結果選択されたもの。さらに緑は、色調断層のほぼ中間に位置するため、強すぎず淡すぎず、中道の安心感を持ち、目にも優しい色。色彩心理学的にも、心に落ち着きを与える色とされており、男性がまとえば柔らなさの中にも威厳を、女性がまとえば、気持ちを寛がせ、それにより、たおやかさをより一層深めてくれる色なのです。
絹を3割増しにした生地と刺子織のプリズム効果
もちろん、絹刺子とくれば、絹を通常の3割増しも用いた贅沢な生地を、鹿の子の凹凸感豊かな刺子織で仕立てたもの。単純な発色では終わりません。この季節、一日において軌道を低く描いてゆく太陽から、斜めの角度で降り注ぐ優しい光が、絹刺子の生地の表面で、そのプリズム効果により微妙に変化し、単調な緑色ではない、えも云われぬ色彩の妙を描いてくれます。
その趣は、秋晴れや薄曇りの光の中で、そしておぼろ月の月光の下で、典雅に揺れる常盤の松―。絹刺子ファンの方はもちろん、初めて絹をお求めになられる方にも充分に深い満足をお届けできるものと自負致しております。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です